Bloom ─ブルーム─
険悪なムードの2人を置き去りにするのは気が引けるけど、これ以上大樹先輩の気持ちを思い知るのはこりごりだ。

言われなくてもわかってるけど、それを言葉や態度で明確に表された途端、少しの逃げ道も見つけられなくなる。

それでももしかしたら……なんて甘い期待も簡単に砕け散る。

「里花、上着」

そのまま鞄を掴んで立ち去ろうとしたのに。

健さんは雨と涙で湿った上着を、私の頭からずり下ろす。

露になった私の目を見て、大樹先輩が瞬きを止めた。

「コンタクトがズレたらしいよ。裸眼だけどね?」

説明する健さんに背中を向けると、私は「コンタクト落としちゃったんです!買わなきゃ」と言いながらマックを飛び出した。

こんな顔見せたら、大樹先輩は困るに決まってる。

こういう顔を見せていいのは、ナナさんだけなんだから。

関係ない私の涙なんて迷惑でしかない。

「コンタクトないのによくスタスタ歩けるね」

健さんの嫌味が、遠くで聞こえた。

マックを出ると、これから夜の街へ繰り出すのか、スーツ姿の男性や着飾った女性で溢れかえっている。

地下に続く階段に向かうと、その下がちょうど待ち合わせ場所となってるらしく、騒がしい声がさらに大きく聞こえた。

それがひどく鬱陶しい。

降水確率50%の天気予報だって、大外れもいいとこだ。

1日中雨。空も、心も。

虚しさを抱えて階段を駆け下りた時、今度は左手首に鈍い痛みが走った。

中途半端な優しさがまた、私を苦しめる。

「先輩……どうして?」
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