Bloom ─ブルーム─
「泣くなよ」

泣き続ける赤ちゃんを見ながら呟く先輩の声は、私にはお母さんに向けて発してるように聞こえた。

ほんの小さな繋がりが、赤ちゃんを通して生まれてくれたのなら。

その繋がりを家族と呼んじゃ、ダメなのかな?

ンギャアッンギャアッ。

泣き声はなぜか、みんなの心を温めるように響いていた。

黙ったままの先輩と、泣いたままのお母さんだけど、赤ちゃんの声に包まれた2人の間で何かが溶けていく感じがした。

「里花……?」

小さくお辞儀して、静かにその部屋を出ようとすると、先輩が私の名前を呼んだ。

その響きが懐かしい。

もう、呼んでくれることはないと思ってた。

「お母さんと、ちゃんと話して下さいね」

産まれたての命ってすごいと思う。

必死で泣き声を上げながら、パワーを振り撒くんだ。

あっちでもこっちでも、その声は私達の凍てついた心を簡単に溶かしてしまう。

その寝顔は、みんなを笑顔にしてくれる。

赤ちゃん、先輩とお母さんの溝を少しでもいいから、埋めてあげて。

きっと今の私も、ちゃんと笑えてる。

先輩に笑顔を向けると、部屋を出た。




病院を出ると、先輩の自転車の隣に座り込む健さんの姿があった。

「健さん?」

もしかして、心配してついてきてくれてたのかな?

「どうだった?さすがに怒られた?」

私は苦笑いを浮かべ

「はい。ガッツリと」

眉を下げる。

「その割に元気じゃん」
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