Bloom ─ブルーム─
「ね?可愛いでしょ?」

私の問いに、先輩はやっぱり黙ったまま。

「ごめんなさいね」

泣きながらお母さんは頭を下げてばかり。

大きな体を縮こめて、お母さんの涙は止まらなかった。

「産むまで働けないから、それまでの間だけ面倒見てもらってただけなの。もう出ていくから、ごめんね」

「……親父が出てけって言ったの?」

お母さんはただただ頭を下げて、小さくなって泣いている。

「出てくのは、俺だから」

私はドキッとして先輩の顔を見上げた。

先輩は握る赤ちゃんの手をずっと見つめながら動こうとしない。

「先輩?」

やっぱり、先輩の気持ちは変わらないの?

そう思った時、先輩は視線を赤ちゃんから私に移した。

そして

「……卒業するまで、もう少し世話になるけど」

と言って、また赤ちゃんを見る。

もう片方の手で赤ちゃんの頭を撫でる先輩が、微かに笑ったように見えた。

途端に赤ちゃんがンギャアッウギャアッと泣き出す。

ンギャアッウギャアッ、ンギャアッウギャアッ。

「先輩、赤ちゃんが」

「なんだよ?兄ちゃんだぞ?泣くなよ」

泣きだす赤ちゃんに焦りながらも、自分を“兄ちゃん”と言った先輩。

その言葉に気づいたお母さんは、口に手を当て、わんわんと声を上げて泣いていた。
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