弁護士先生と恋する事務員


事務所の掃除をして、観葉植物に水をあげて。


コーヒーを落としたら、もうすぐ先生がくる時間。


窓際に立って通りを眺めていたら―――来た。



足取りも軽く、商店街の女の子達に声をかけながら


上機嫌な先生が歩いてきた。



(顔色もいいしすっかり元気になったみたい…)



勝手なもので、予想以上に元気いっぱいな先生の姿を見たら


ちょっとだけ心配して損したって気分になる。




「おはよう!いやあ、詩織のおかげで―――」



事務所のドアが開き、大きな声を出して入ってきた先生が


私を見てしばし、フリーズしている。



「お、おはようございます…。元気になったんですね、良かった。」



無遠慮なぐらいじっと私を見つめる視線に緊張が高まる。



「ちょっとイメチェンしてみたんですけど、変、ですか…?」



ドキドキしながら思い切ってそう尋ねてみると



「……いや…。」



まぶしいものでも見るように、一瞬目を細めた先生はすぐに戻って



「なんだなんだ。詩織もとうとう色気づいたか!ナマイキな。」



わははと笑いながらそう言うと、いつものように私の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。




「あ、金曜日はありがとな。お前の作ってくれたお粥、うまかったぞ。」


「そ、そうですか。良かった。」



一瞬で先生の熱い体温を思い出して、心臓がどうにかなりそうなほどドキドキと鳴り出した私とは対照的に


そんなことはもうすっかり忘れたというように、先生は普段通りの表情に戻っている。



「俺の自然治癒力も侮れねえだろ。一晩で完治してやった。」


「す、すごいですね。」


「まだまだ、若いもんには負けねえぞ。わははは!」



健康自慢のおじいちゃんみたいな事を言いながら高笑いする先生。


(…なんだ、もっと気にしているかと思ったのに、拍子抜け…)



―――ていうか!!



仮にもうら若い乙女の首にチュッチュチュッチュしておいて


なんだろう、このシレッとした態度は!


先日何かありましたっけ的な?


いやむしろその程度の事俺にとっては朝飯前の軽いウォーミングアップですけど何か、的な?


へえー、先生ってあんな事、平気で女の人にできちゃう人なんだ?


ボンジョルノ!イタリア男かっつーの!



(……気にされると困るけど、気にしなさすぎると腹が立つぅー!)



複雑な乙女心なんて


きっと先生には100年たってもわからないんだろうなあ。

 
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