弁護士先生と恋する事務員
誘う男
――メガネのない顔に周りも自分もようやく慣れてきたある日の事。
「お祭りですか?」
「そう。この先にあるよつば神社でお祭りがあるの。
商店街のほとんどが出店をやるのよ。
つきあいでたくさん食券買わされているから、詩織ちゃんも参加ね!」
そういえば、商店街に色とりどりの提灯が飾られていたっけ。
お祭りなんて、おばあちゃんと一緒に暮らしていた頃以来だなあ。
わたあめやヨーヨーすくい、楽しかったなあ。
「ジュリアも来るわよ。もちろん、今夜は“王子様”と過ごす気満々だけどね。」
柴田さんが小声で囁いた。
「なるほど。二人で歩くチャンスですもんね。邪魔しないようにしまーす!」
二人で今夜の打ち合わせをしていると、朝一番の相談者がやってきた。
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
「複数持っているカードローンが、返せなくなったということですね?」
「そうなんスよ。知らねえうちに限度額いっぱいになっちゃってもう返せる気がしないんで」
カード破産の相談に来た若い男の人は、へらへらしながら先生の質問に答えている。
「それじゃあまずはすべてのカードと預金通帳のコピー、それからあなたの給与明細書なんかをそろえて……」
私は応接セットにコーヒーを運び、男の人と先生の前に静かにソーサーを置いた。
「あ、ども。…つかこの人ここの事務員さん?めちゃタイプなんだけど!」
「……はっ?」
破産の相談をしている人間から出たとは思えない軽薄な言葉に
私も先生も、一瞬固まってしまった。
「いや、かわいいなーと思って。俺25だけど君何歳?」
「………」
こんな相談者は初めてだ。
言葉に詰まる私に、片手で『下がっていいぞ』と合図をした先生が、咳払いをして話を戻した。
「コホン。えー、必要な資料、書類を集めてですね、どうしても自己破産という道を選ぶのであれば破産の申し立てを―――」
先生が説明をしている間も、男はジロジロと無遠慮に視線をよこしてきたのだった。