弁護士先生と恋する事務員
「先生っ!」
すかさず男を突き飛ばして先生の側に寄ると、
先生は守るように、片手で私を抱きとめてくれた。
「なに、さっきの弁護士さんじゃん。事務所の外で誘ってんだから別によくね?恋愛は自由でしょー。
つか、とりあえずその手、離せって。」
男は相変わらず軽薄な口調でそう言った。
男の襟首を掴む先生の手に、じりじりと力が入る。
「んじゃー、はっきり教えてやるわ。
この子は俺のもんなの。わかるか、俺の女って事だ。」
先生は、私を抱きしめる腕にきゅっと力を入れた。
(えっ……)
この場限りの嘘だってことはわかってる。
わかってるけど…
ドキドキドキドキ……
私の心臓が、あり得ないほど速く鳴り始めた。
「こう見えても俺はなぁ、めちゃくちゃ独占欲が強ぇんだ。
お前が詩織に色目使ってるだけで腹わた煮えくりかえってるっつーのに…
まさかこんな人気のねえ場所に連れ込んでるとはな。」
先生が、男の襟首をジリジリと持ち上げる。
「な、なんだ、できてんのかよ。だったらもういいわ。苦しいから、離せって!」
「もうギブアップか。ふん、まあいいけどな。」
ぽいっ、と捨てるように先生は男を解放した。
「あんま世の中なめてたら、痛い目に遭うって事だ。
破産はどーすんだ。たいした収入もねえのに物欲ばっかいっちょまえだからそんな事になるんだよ。
まあ、お前がどうしようが勝手だが、他の事務所行くならそうしろ。
俺んとこで手続き続行するなら、今後一切詩織に手ぇ、出すんじゃねえ。
弁護士だろうが依頼人だろうが関係ねえ、俺の女にちょっかいかけやがったら許さねえからな。わかったか!!」
「は、はいぃぃ!!ちょっと考え直してみます、ごめんなさぁぁい!」
先生の凄味に圧倒された男は、逃げるようにして階段を駆け下りて行った。