弁護士先生と恋する事務員

(う…声色が変わった。出たな、ブラック祐介―――。でも今は、安城先生の不可解な行動の意味を知りたい)


「安城先生は剣淵先生が嫌いじゃないはずですよね。だったらどうして…」


「俺は剣淵先生が好きだよ。あの人に憧れて、無理言ってこの事務所に入れてもらったぐらいだから。」


「そうなんですか… だったらどうして―――」


「俺はね、剣淵先生や俺に寄ってくる女が嫌いなの。」


安城先生は本から目を上げて、私を見た。


「別に俺は、剣淵先生の恋愛を邪魔しようと思ってやってるわけじゃねえから。

だけどあいつら、剣淵先生が好き好き言っておいて、俺がちょっと甘い言葉かけたら簡単に乗り換えてくるんだぜ。あさましいと思わねえ?」


安城先生は本当に嫌そうな顔をしてそう言った。


「う… でも安城先生もそこそこイケメンだし、甘い言葉で近寄って来られたら、そりゃあ心変わりもするでしょうよ。」


「『そこそこイケメン』ってお前にいわれるとムカつくな」


「痛っ!」


ムッとした安城先生に、デコピンされてしまった。


「――だけど、お前は全然乗ってこなかったよな。」


ククッと笑って私を見る。


(そ、そりゃあ安城先生の裏の顔になんとなく気づいてたし、それに私は剣淵先生一筋だし!)


「お前らはどう思ってるか知らないけどさ。」


急に真顔になる安城先生。


「俺たちはずっと勉強勉強で、必死で勉強ばっかりしてきたわけ。」


安城先生はパタンと本を閉じると、私に向かって話し始めた。


「頑張って大学に受かったら次は大学院、それから司法試験に合格するまで…もう寝る間も惜しんで勉強漬けだよ。遊んでる暇なんか全然なかったよ。」



『――弁護士になるまでも、なってからも、独立してからはさらに…とにかく必死だった』


剣淵先生がつぶやいた言葉を思い出す。


「やっと弁護士になって必死に仕事覚えて…だけどそんな事なんて考えもせず、弁護士っていうだけで寄ってくる女がたくさんいるんだよ。」


「……」


「カネ、持ってそうなイメージじゃねえ?弁護士って。ここなんか安月給なのにな。あ、剣淵先生に怒られるか。」


ははは、と笑った安城先生はいつもの作り笑いとは違う、自然な笑顔だった。
 
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