弁護士先生と恋する事務員
「そういう女が嫌いだからさ、弁護士と結婚するのが目当てな奴らには近寄らせたくねえの。剣淵先生なら、あっさり騙されそうだろ。」
「た、確かに…」
「だからあいつらを遠ざけた所で、剣淵先生に悪いとは思ってねえよ。」
「そうだったんですか…。」
今まで描いていた腹黒な安城先生のイメージは一変した。
もしかしたら本当は、真面目で潔癖な人なのかもしれない。
「ごめんなさい、今まで安城先生の事、腹黒で寝取るのが趣味なド変態だなんて勘違いしてて。」
「ブッ…!ド変態って!そういうお前がヘンタイだ、このムッツリ地味女が!」
うわはは、と安城先生はお腹を抱えて笑っている。
(ムッツリ地味女…)
軽く傷つきながらも、安城先生が本当に楽しそうに笑っているから、私まで可笑しくなってきた。
「お前もさ、突撃就活みたいな感じでこの事務所に入ってきただろ。コイツも結婚目当てなんだろって思って…
だからずっとお前の事嫌いだったけど、そうでもなくなった。」
「そ、そりゃどうも…。
だけどどうするんですか、これから。ずっとお付き合い続けていけるものなんですか、何人も。」
「恋愛関係一歩手前でうまくやってるから。
セックスはしねえけど、食事やデートで徹底的に相手を気分良くさせてるから、いい関係築けてると思うよ。」
(セッ…ス…って)
「あ、安城先生、オブラートに包み忘れてますよ、言葉。」
「ああ、お前ムッツリのヘンタイだから別にいいだろ。」
(―――定着!)
「俺があいつらとうまく付き合い続けてるのは、仕事回してもらえるからなんだぞ。あいつら結構顔が広いからな。いわゆる、接待なんだよ。
お前の給料もボーナスも、俺の涙ぐましい営業活動からひねり出されてる事、忘れんなよ!」
「そ、そうだったんですか―――!!」
目から鱗が落ちるという言葉があるけれど、まさにこの時の私はそんな心境だった。
ずっと謎だった安城先生の隠密行動が、事務所の営業だったとは。
(ありがたや、ありがたや!)
「俺に向かって手をすり合わせるな。お前はババアか!」
安城先生はすっかり呆れていたけれど、私は拝むのをやめなかった。