弁護士先生と恋する事務員

「先生、出張から帰ってきてから、ずっと様子が変ですよ?あ、遊び過ぎたんじゃないですか?その…キャバクラとかでっ…」


じわり。
急に涙が滲みそうになって、慌てて片手でメガネを上げるふりをする。


「遊んでねえ、キャバクラも仕事の付き合いだ。ちょっと…暑いから食欲ねえだけだよ。」


先生は走り回るパンダの方を見て、面倒くさそうに言った。


「それじゃあ、夏バテです!夏バテには… そうだ、夏バテにはうなぎですよ!先生、たまには私にごちそうさせてください。今から食べに行きますよっ!!ほら立って!!」


私はスクッとたちあがって先生の腕を思いっきり引っ張った。


「食欲ねえって言ってるだろ。ウナギなんて食えるか、バカ!」

「だ、ダメです、嫌でも食べなくちゃ。」


私は両手で先生の腕を力いっぱい引っ張り続けた。


「早くっ…元気になってっ… 元の先生にもどってください…よっ」


「――詩織!」


急に鋭い声で先生に名前を呼ばれた。

引っ張る手を緩めて、先生を見る。


「……お前、なんで泣きそうな顔してるんだ?」


先生が不思議そうに苦笑しながら、私の顔を下から覗き込んだ。


(泣きそうな顔!?)


自分ではまったく気付かなかった。


「先生が元気ないと、私まで元気なくなります。先生にはいつも笑っててほしいんですよ。」


情けなく半ベソをかいた私は、言い訳するようにそう言った。


「詩織……」


先生は私の手を掴んでベンチから立ち上がると、優しい目で見つめながら反対の手で私の頬を二度、撫でた。


(……っ)


心臓が、ドクン、と音を立てる。



物憂げな長い睫毛


透き通る茶色い瞳


骨ばった指先―――



吸い寄せられるように、先生の整った顔から視線を外すことができない。


私と先生は、しばらくその場で固まったように見つめあっていた。
 
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