弁護士先生と恋する事務員


クウン、クウン……


サンドイッチを全部食べ終えたパンダが、私と先生の周りを物欲しそうに鳴いて回り始めた。


はっ、とお互い我に返って、先生の手がするりとほどける。


先生は顔を上げると、私の顔を見てふと、ニヤリと高慢な笑みを浮かべて言った。


「お前になんか奢られてたまるか。ウナギの一杯や二杯、俺が食わしてやる、ついて来いっ」


先生は私の手首を掴みなおすと、商店街の道へ向かって走り出した。


「わ、わ、ちょっと待って!」

「ブチ、また明日な!」

「ちょっと、先生ー!」


ほとんど引きずられるように手を引かれ、私と先生は真夏の真昼間

ウナギ屋ののれんをくぐったのだった。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


「おばちゃん、うな重特上二つ!!」

「あいよ!」


席に着いたとたん、きりっとした顔で注文する先生。


(急に元気になっちゃって、なんなの…)


ハア、ハア、ハア……

いきなり走らされたから呼吸がなかなか整わない。


「詩織、ここの特上はなあ…」


ハア、ハア、ハア……

「は、はい……」


先生は息も絶え絶えな私を気にも留めず、得意げな顔をして耳元で囁いた。



「……ご飯の間にも、ウナギが挟まってるんだ」



「…そ、そうなんですか……」



「すげえだろ」、そう言って白い歯を見せてわはははと笑う先生。


(無理してから元気出してる?)


そう思ったけど、口には出さずに

私は素直にうな重特上を先生と一緒にガツガツと食べた。
 
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