白紙撤回(仮
俺の借金の後半は完全にギャンブル絡みだ……。借金を埋める為に、また借金を作って、いつの間にか堂々巡りになって……。

自己破産は無理。
どうする……。

どうする。

俺の不安に市ヶ谷は最後のとどめを刺した。

「そのうち親、兄弟に手が回るよ?」

頭が真っ白になった。
また息苦しくなってその場に崩れ落ちた。
そこで市ヶ谷は俺に優しく語りかける。

「君の借金を僕がチャラにする……君は僕と一緒に秘密を背負ってくれればいい。これでどうかな?身代わりに自首とかそういった事じゃない。どうする?」

借金がチャラ。俺の答えはただ一つしかない。

「……わかった……」

そう小さく呟いた。

答えを聞くと市ヶ谷は怪しく笑い、ベランダに足を踏み入れた。

「……成立したね。約束は守ってもらう。もし、君が逃げたりしたら……僕は何をするかわからないよ?山科春人君」

ゾワッと鳥肌が立つ。
名乗ってもいないのに、市ヶ谷は俺の名前を口にした。
気味が悪い……。

俺は露骨に嫌な顔をして市ヶ谷を見ていた。
市ヶ谷は少女の死体を抱きかかえてベランダから部屋に運び入れようとしている。
俺は恐る恐る尋ねた。

「……部屋に入れるのか……その死体」

「死体じゃない。希美だよ……。ベランダに出しっぱなしじゃ見つかるからね、僕の部屋に運ぶんだ……」

市ヶ谷が部屋に死体をあげた瞬間、辺りにふわっと嫌な臭いが漂った。
俺は嫌悪感で顔を背け息をとめた。

「……僕の大事な糧なんだ……」

市ヶ谷はそう言うと、隣の部屋に死体を運んで行った。
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