白紙撤回(仮
それから駅近辺にある有人店舗で三社の返済を済ませ、残りは振り込みで返済を済ませた。

市ヶ谷に付き添ってもらったが、大の大人が付き添いを連れて返済というのも恥ずかしいものだった。
窓口のお姉さんから「御兄弟ですか?」と笑顔で聞かれ市ヶ谷の張り付いた笑顔が一瞬、消えた時は気が気でなかった。
バカそうな俺と兄弟に間違われたのが不服だったのだろう。

とにかくこれで俺の金融地獄は解消した。
駅の長い階段を上がる途中、俺は市ヶ谷に話しかけた。

「あの……市ヶ谷さん」

「何?その気持ち悪い敬語やめない?」

「……三百万の余り。六万八千二十四円はとりあえず今返すから残りは月々いくらか決めて返していく形で……」

「別にいいよ。月々決まった額じゃなくても。僕は貸したって言うよりもあげたつもりでいるから」

その言葉に俺の足が止まった。
俺にとっては有難い話なのかもしれないが市ヶ谷から冷たく突き放されたような気がした。
まるで境界線をひかれたみたいに。

立ち止まった俺に気づいて市ヶ谷は振り返って足を止めた。

「……山科君?」

「俺は貰ったつもりないからな!絶対、返すからな!?……利子は勘弁してほしいけど」

プライドに本音を付け足して言うと市ヶ谷はようやく笑った。
俺は勢いよく階段を上がり市ヶ谷に並ぶと六万八千二十四円を市ヶ谷の手に握らせた。

「とにかくこれは返す!」

「ま、頑張って返してよ。じゃ帰って仕事始めるよ?」

「頑張ります社長!行きましょう!」

「ちょ、山科君、お金仕舞わせて?」

俺はわざとらしく市ヶ谷の背中を押して階段を上がった。
市ヶ谷は俺がやっぱり面倒臭いと苦笑いした。
< 37 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop