白紙撤回(仮
昼休憩後、納品書のチェックと問い合わせの返信で俺の仕事は始まった。
問い合わせに関しては俺ではさっぱりなので市ヶ谷に確認してメールを作成する。
シリコンなど材料の発注もメールからでたまに確認の電話を市ヶ谷がやり取りしている。

今まで市ヶ谷が制作から全て一人でやっていたのかと思うと俺をアシスタントにしたことも納得出来る。
しかし、市ヶ谷が俺の借金を肩代わりしようとしたことは未だに理解不能だった。
金にあまり執着がないのか元々、金持ちなのかわからないが返済に関して市ヶ谷は一切、口にしない。
こちらが気を使うほどだ。

夕方を過ぎ、運送屋が来て梱包済みの商品を運び出すと仕事にキリがつき今日は終わろうかと市ヶ谷が声をかけた。
俺がパソコンを切ると鍵がデスクの上にチャリンと放り投げられた。
意図がわからず俺は市ヶ谷を見る。

「ここの鍵のスペア。山科君に渡しておくよ」

「え、貰っていいのか?」

「出入り出来ないと困るだろ?ここの部屋を借りるつもりがないなら別だけど」

「いるいる!貸して下さい!」

取り上げようとした市ヶ谷から慌てて鍵をかすめ取った。市ヶ谷はそれを見ると付け加えるように口にした。

「それと明日は仕事休みだから」

「じゃあ明日、荷物運んでも?」

「構わないよ。一応、セキュリティ入ってるけど戸締まりはちゃんとしてね」

「了解!ついでに車なんて貸していただけると助かるかなーって。引っ越し手伝って貰えると凄く助かるかなーって」

「……山科君、もしかして業者に頼まないで自分で荷物運ぶつもり?」

嫌そうな顔の市ヶ谷に愛想笑いをすると小さなため息が返ってきた。
結局、部外者の出入りがないなら制作途中の人形を片付ける必要もないと言う理由で市ヶ谷は手伝いを渋々、引き受けてくれた。
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