白紙撤回(仮
その日、月明かりの中、マンションに帰宅するとドアの前に座る人影に俺は足を止めた。

外見が少し変わっていたが間違いない。
久しぶりに見るソイツは俺の家のドアにもたれスマホを弄っていた。
一瞬、引き返そうかと頭を過るが、気付かれて俺はその場で立ち尽くした。
俺を見つけて華は慌ててスマホを仕舞い立ち上がる。


「春人!?携帯繋がんないじゃん!あんた今、何してんの!?」

「携帯、今止まってるから……何?」

久しぶりなのに穏やかな挨拶もない。

「……お前、今さら何しに来たの?」

元カノの華との再会は冷めたもので俺の中ではすでに会うことのない過去の人のはずだった。
無表情のまま言うと華は大袈裟にため息をついた。

「何じゃないわ。心配して来てやったんでしょ?春人、会社辞めたって聞いて、携帯も連絡取れないって言うし……本当、何してんの!?」

「もう関係ないだろ。俺がどうしようと」

「関係なくはないでしょ!木村さんが心配してた」

華とは面倒なことに共通の友達がいるので俺の状況が筒抜けのようだ。
しばらく共通の友達のソイツにも会っていないが。

「大丈夫だよ。大丈夫だからバイバイ」

サッとあしらい部屋の鍵を開けて中に入ろうとすると華は腕を取って引き止めた。

「バイバイじゃないでしょ?わざわざ来てやったんだし部屋、入れてよ」

相変わらず気が強い。
俺が考える間もなく、華は強引にドアを開けて中に入って行く。
慌てて後を追うと華は部屋を見るなり叫んだ。

「何!?部屋に何にもないじゃん!テレビは!?パソコンは!?」

久しぶりの元住居の変わりように唖然としているようだ。

「俺、引っ越すんだよ」

突然切り出した俺の話に華は再び信じられないと言う表情をした。
説明するのも何だか面倒だ。
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