たなごころ―[Berry's版(改)]
15.手の甲へのキス
 身体中で、早鐘のように鳴り響くのは。自身の心音。そのリズムとは異なる振動が、掌を通し伝わる。強く握られ、逃れられずに添えている箕浪の胸から。彼の鼓動が、体温が。掌から感じる鼓動も、自身と同様。決して落ち着いているそれとは異なっていることが分かり、笑実を更に動揺させる。
 この現状を打破するため、笑実は自身の手を引き寄せようと試みる。だが、それ以上の力で、箕浪の男の力で。押さえ込まれてしまう。動揺と、少しだけ怒りを込めた視線を向ければ。突き刺さりそうなほどの真剣な箕浪の眼差しが、そこにはあった。
 瞬時に、笑実は白旗を上げ、箕浪の視線から逃げる。小さな、唾液を飲み込む音さえ響くのではないかと錯覚してしまいそうな静寂。笑実は乾いた唇に歯を立てた。

「――箕浪さん。放してください」
「嫌だ。笑実、逃げるな。俺を見ろ」
「無理です。これ以上は、聞けません。聞きたくありません」

 笑実の手を包み込んでいた箕浪の掌へ、更に力が加わる。それは笑実に痛みを与えるほどで。眉を顰めた一瞬。箕浪の腕が笑実の腰に回り、引き寄せられる。気がつけば。笑実は箕浪の腕の中に納まっていた。

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