たなごころ―[Berry's版(改)]
「可笑しいと思うだろう。最初はあれほど、笑実のことを疎ましく思っていたのに。タイプでもない、若くもない笑実に、惹かれるだなんて」
「……箕浪さん、私に喧嘩売ってます?」

 小さな笑みを零し、箕浪は更に笑実を強く抱きしめる。笑実の髪に頬を摺り寄せて。

「いつからかなんて説明はできないけれど。猪俣笑実……笑実の存在を、気がつけば探しているんだ。見つけてしまえば、目を逸らすことも出来ない。笑実だけが輝いて見える。存在を感じるだけで、胸が高鳴る。まるで、病に罹ってしまったように。わかるだろう?お前にも、俺の鼓動が聞こえるだろう?」
「……これは、高いところに居るからです」

 ゆっくりと。笑実の拘束を、箕浪は解く。笑実の両肩に手を添えて、距離をとる。俯く彼女の顔を覗き込むように、首を傾げて。

「笑実。どうしようもないほど、好きだ」

 箕浪の視線から逃れたまま。観覧車内の地面を見つめて。笑実は声を絞り出す。少し震えている自身の腕に気付き、それを誤魔化すように腕を擦って。

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