たなごころ―[Berry's版(改)]
 箕浪の会社訪問の時にも、同じ事をした記憶があるが。やはり、思い出される内容は変わらない。パーティと名のつくところへ出席できるような服は……。友人の結婚式に着用したモノくらいだろうか。
 ソファーの背に頭を乗せ、笑実は天井を眺めため息を零す。やはり、あのふたりと自分では住む世界が違うと。

 ここ数日、事あるごとに愛を囁く箕浪に。心が揺れないかと問われれば。笑実は完全に否定が出来ない。刷り込まれてゆくように、少しずつ。箕浪の言葉が笑実の身体を侵食してゆく。自分の気持ちがどこにあるのか、見失いそうになるときすらある。しかし、寸前のところで踏み留まれているのは。現実がそこにあるからだ。どうすることも出来ない、世界観の違い。
 笑実は再び、大きなため息を零した。

 ※※※※※※

 約束の土曜日。笑実は通常よりも早い時間に、職場を後にしようとしていた。箕浪から早退するよう言われ、同僚に頼み融通してもらったのだ。大学構内を抜け、駅を目指し歩いていた笑実を、誰かの声が呼び止める。視線を向ければ。いつか見た白い車の横に立つ、箕浪の姿が、そこにはあった。


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