たなごころ―[Berry's版(改)]
 誰も見ていないことをイイことに。笑実は行儀が悪いと思いながら、大胆に足を組む。肘掛にひじを乗せ、作った拳の上に、自分の頭を乗せて。

「何、やってるんだか」

 誰に聞かせるでもなく、自嘲気味な言葉が口から零れる。
 不意に、会場から洩れるざわめきが大きくなった。振り返れば、誰かが会場から出てきたようで。目にした人物の姿に、笑実は目を見開く。瞬きを繰り返し、今、目にした映像が現実なのか確認するように。
 気が付けば、笑実は今出てきた人物の後を付いて歩き始めていた。

 化粧室さえ通り過ぎ、エレベータすら通り過ぎた。目の前の人物の後姿を追いかけながら、笑実は考えていた。
 先ほど、姿を目にしたときは、『何故』と疑問の言葉ばかりが頭に過ぎったが。よくよく考えれば、彼がこの会場に、このパーティに出席していても、可笑しいことはないのかもしれないと。笑実は考え直していた。
 ここ1ヶ月ほどは、まともに連絡もしていない。いや、付き合っていた期間ですら、相手の情報を正確に把握していたのかと聞かれれば。頷けないと、先日の喜多の調査結果で明らかになっている。だからこそ、彼がこの豪華なパーティに出席するほどの交友関係があったとしても。笑実がそれを知らなかったとしても。何も不思議ではないと。

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