たなごころ―[Berry's版(改)]
 間違いではなかった。笑実が感じた嫌な予感は、当たっていたのだ。
 笑実の存在を気にすることなく、会話を続けるふたりの間に。笑実は割って入り込む。学の袖を掴み、先ほどまで自分が立っていた場所まで。無理やりに、学を引っ張り連れてゆく。唐突な笑実の行動で驚く学を前に、笑実は堰を切ったように話し出した。

「ねえ、何してるのよ!それは……それは、大事な研究データじゃないの?外に漏らしていい情報じゃないでしょう?」
「……俺のためなんだよ。笑実、分かるだろう?黙ってここで待ってってよ」
「黙ってられないわよ!学がしようとしていることは、皆を裏切ることになるのよ!?」

 笑実の言葉に、学の表情が一変した。
 予定外の笑実の出現に、学が苛立たしさを感じていたことは間違いない。それでも、理性で押さえ込んでおくことは可能だった。今日の山場を越えれば、今までの苦労が報われるのだから。しかし、笑実の発言を引き金に、抑制された感情が、一気に溢れ出る。膨らみすぎた風船が、破裂したような力を持って。
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