たなごころ―[Berry's版(改)]
 学は、笑実が掴んでいた腕を振り払う。力いっぱいに。思いもよらない大きな力で。頼りを失った笑実は、尻餅をつく。床に座り込む形で、笑実は学を見上げた。怒りを顕いした学の顔を。

「黙れよ!」
「……学」
「お前は煩いんだよ!これは、俺の研究結果でもあるんだ!研究に1日中縛り付けられて、それこそ、1分1秒も無駄に出来ない。俺の時間を犠牲にしたものだ、俺がどうしようと自由だろう!」
「学ひとりの物ではないでしょう?犀藤先生をはじめ、研究室みんなで得たものでしょう!?」

 震えながらも、懸命に言い返す笑実に。学は口角を上げ、笑みを浮かべる。嘲笑うかのように。

「笑実にはわからないだろうけれど。この世界ではよくあることだよ。研究は発表したもの勝ちなのさ」
「狐林くん」

 笑実と学、ふたりの言い争う声が、耳に届いていたはずだろうが。参加する様子もなく、口を閉ざしていた男性が。パソコン画面から視線を逸らすことなく、学を呼んだ。唇を噛み締め、自分を見上げる笑実を一瞥してから。学は彼の元へと戻ってゆく。
 学の背中を見つめながら、笑実は拳を強く握り締めていた。爪で傷が出来てしまうほどに。
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