たなごころ―[Berry's版(改)]
 過去の話ではあるものの。自分の愛した人が、目の前で不正を働いている。にも拘らず。止めることの出来ない無力な自分が、あまりにも情けなく感じたからだ。

 傍らまで来た学に、男性は訊ねる。期待した以上の結果を前に、興奮しているのだろう。頬をやや上気させながら。

「このデータをコピーするにはどうしたらいいのかな?ロックが掛かっているみたいだけれど」
「……先に、保障を見せていただけませんか?文章でも何かしらの書類でも構いません。残る形で。僕が卒業後、御社の研究室へ就職できるという確約を」
「もちろんだよ、それは保障すると言っているだろう」
「口約束だけじゃ、安心できませんよ。こっちはもう、後戻り出来ないところまで来ているんですから」

 男性が、唸るように学を見やった。まさか、ここで学が条件を提示してくるとは思っても居なかったのだろう。餌を前に、マテを言われているようなものでもある。
 学の質問に答えることなく、再びパソコンのキーに触れようとした男性に。学はすばやく忠告する。

「一言言っておきます。無理やり移動させようとすれば、データは全て飛びますよ。ウイルスをプログラムしておきましたから」

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