たなごころ―[Berry's版(改)]
21.聞けない言い訳
 僅かに開いていたドアが突然、誰かの手によって大きく開け放たれる。傍で座り込んでいた笑実は、驚き、一瞬身体を緊張させた。今までは、4人しか居なかった、ただ広く静かな室内に。靴音を響かせ、どっと大勢の人が押し寄せる。呆然と、目の前を通ってゆく集団を眺めていた笑実は、数人の見知った顔を見つける。犀藤助教授も、そのひとりであった。
 不意に、笑実と犀藤の視線が絡む。眸を見開いたまま、動揺を顕にしている笑実の顔を確認し、彼は眉を下げたまま小さく頷いたのだった。犀藤の態度を前に、今回の件には彼も絡んでいたのだと。笑実は悟る。

「箕浪」

 室内に入ってきた、先ほどまで別室で中継を見ていた人物等。学の通う大学関係者や新薬開発に関わっている製薬会社社員や治験協力の病院関係者。彼らに混じりやってきた喜多が、箕浪の名を呼んだ。
 箕浪の目の前には、既に戦意喪失した学と鼠淵製薬会社の社員。彼らが逃げ出す心配も、余裕もないだろうと判断し。箕浪はその場を離れ、喜多の隣へと移動する。

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