たなごころ―[Berry's版(改)]
「お疲れさま。あとは俺が引き継ぐ。箕浪は猪俣さんを連れて先に帰れ」
「……悪いな」
「今更だ」
口角を上げ、喜多は箕浪の肩を叩く。当事者である学と男性を取り囲むように出来た人の輪。その中へ消えてゆく喜多の背中を見送り、箕浪は笑実の傍へと歩み寄る。未だ、床に座り込んだままでいる笑実の傍へ。唇を噛み締めたまま、どこか一点を見つめたまま。笑実は動こうとしない。
膝を折り、箕浪は笑実の顔を覗き込む。笑実が自分の存在に気付くよう、彼女の視界に入るため。笑実の乱れた髪をかき上げ、箕浪はそっと耳に掛ける。
「猪俣笑実、大丈夫か?」
ゆっくりと。夢から覚めたかのように。笑実の眸が箕浪を捉える。彼の姿を、笑実が認識した途端。表情が酷く険しいものへと変わった。向けられる鋭い視線。箕浪はそれを逃げることなく受け止める。
「箕浪さん。教えてください」
「なんだ」
「偶然ですか?ここに、箕浪さんが来たのは、偶然なんですか?」
「……いや」
「……悪いな」
「今更だ」
口角を上げ、喜多は箕浪の肩を叩く。当事者である学と男性を取り囲むように出来た人の輪。その中へ消えてゆく喜多の背中を見送り、箕浪は笑実の傍へと歩み寄る。未だ、床に座り込んだままでいる笑実の傍へ。唇を噛み締めたまま、どこか一点を見つめたまま。笑実は動こうとしない。
膝を折り、箕浪は笑実の顔を覗き込む。笑実が自分の存在に気付くよう、彼女の視界に入るため。笑実の乱れた髪をかき上げ、箕浪はそっと耳に掛ける。
「猪俣笑実、大丈夫か?」
ゆっくりと。夢から覚めたかのように。笑実の眸が箕浪を捉える。彼の姿を、笑実が認識した途端。表情が酷く険しいものへと変わった。向けられる鋭い視線。箕浪はそれを逃げることなく受け止める。
「箕浪さん。教えてください」
「なんだ」
「偶然ですか?ここに、箕浪さんが来たのは、偶然なんですか?」
「……いや」