たなごころ―[Berry's版(改)]
 箕浪の言葉に、笑実の眸から涙が溢れる。もう耐えられないと悲鳴を上げるように。手を伸ばし、箕浪が笑実の頬へ触れるより早く。笑実はその場に立ち上がった。大きく開かれたままのドアを抜け、廊下へ飛び出す。一歩遅れ、箕浪は彼女を追った。
 不安定な足元で、まともに走ることさえままならない笑実を。箕浪は直ぐに捕まえる。肩を掴まれた笑実は、それを払いのけ振り返った。と同時に。両耳に飾られていたイヤリングをむしり取って。笑実はそれを投げつける。箕浪へ向かって。
 イヤリングは、箕浪の胸に当たり、床へ落ちた。毛足の長い絨毯に、吸収されてしまったかのように静かに姿を消して。
 止まることなく頬を伝い落ちる涙を、笑実は乱暴に拭う。化粧が崩れることも、瞼が赤く擦れることも。今は気にならない。続けて、笑実は靴を脱ぎ手に取る。イヤリングと同様。箕浪へ投げつけた。胸で受け止め、衝撃を感じながらも。箕浪は動かない。視線をも逸らすことなく、笑実をただ見つめる。
 笑実の行動は、靴を手放した後も止まることはなかった。自分の首の後ろへ手を伸ばし、服の止め具を外そうとする。だが、思うようにいかないのだろう。徐に、笑実は力任せにそれを左右に引っ張った。何かが弾ける音と共に、生地が大きく裂ける。
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