たなごころ―[Berry's版(改)]
「一晩中かかりましたが。落ち着きましたよ。……探偵の方々とお知り合いだったんですね。猪俣さん」
「はい……今となっては、偶然かは分かりませんが」
「正直、昨晩。あの場所に猪俣さんが居て驚きました」
「私もです……」
「未だに、狐林くんと猪俣さんが付き合っているとは思っていなかったもので」

 犀藤の言葉に、笑実は弾かれたように顔を向ける。予想外の犀藤の言葉に、笑実は驚きを隠せない。無言で居る笑実に、犀藤は先を続けた。

「図書館で勤務されている猪俣さんはご存じないかも知れませんが。院に上がってから、狐林くんは少し……変わってしまった。研究へは確かに熱心に打ち込んでいる。それは変わらない……いや、違いますか。何かに追われるように打ち込んでいたと言ったほうがいいかもしれないですね。それに比例するよう、人間関係も激しくなっていたようで。研究室のメンバーが、噂するようになっていたんです。色々とね。ただ、指導教員とはいえ。私生活まで私が口を挟むことではないですから、静観していました。ですが。今回の件に関してだけ言わせてもらうなら。もっと早くに、私が気付いてあげることが出来ていたならと思わずにはいられません。そうしたら、結果が。何か変わっていたのかもしれないと」

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