たなごころ―[Berry's版(改)]
「……あの製薬会社の人とはどこで?」
「うん?ある時、声を掛けられたんだ。俺が大学の院生だってどこからか耳に入れたみたいで。上手く話が行けば、卒業後研究室に就職させてやるって言われた。魅力的だった。欲しかったんだ。喉から手が出るほど。俺が歩んできた道は正しいと導いてくれる、明るい光に変わる確証が」
眼鏡を外し、髪をかき上げて。学は空を見上げた。木陰から漏れる日差しが眩しいほどだ。笑実に言うのではなく、自分に聞かせるように。言葉が零れる。
「……馬鹿だよな」
学は眸を細めて笑みを浮かべた。どこか、寂しそうに感じるその笑顔。
学を前にし、笑実は気付く。彼も苦しんできたのだと。自分を騙し、背を向け、恋人である笑実ではない他人に救いを求めたことは。簡単に許せることではない。しかし、学の浮気現場を目撃したあの時の思いと、真実を聞かされた今では。笑実の胸に宿る思いは違っていた。
「本当に、馬鹿よ。……もし。私が知っていたら、どんなことをしてでも、止めたわ」
「うん、笑実なら。そうしてくれただろうと思う」
「うん?ある時、声を掛けられたんだ。俺が大学の院生だってどこからか耳に入れたみたいで。上手く話が行けば、卒業後研究室に就職させてやるって言われた。魅力的だった。欲しかったんだ。喉から手が出るほど。俺が歩んできた道は正しいと導いてくれる、明るい光に変わる確証が」
眼鏡を外し、髪をかき上げて。学は空を見上げた。木陰から漏れる日差しが眩しいほどだ。笑実に言うのではなく、自分に聞かせるように。言葉が零れる。
「……馬鹿だよな」
学は眸を細めて笑みを浮かべた。どこか、寂しそうに感じるその笑顔。
学を前にし、笑実は気付く。彼も苦しんできたのだと。自分を騙し、背を向け、恋人である笑実ではない他人に救いを求めたことは。簡単に許せることではない。しかし、学の浮気現場を目撃したあの時の思いと、真実を聞かされた今では。笑実の胸に宿る思いは違っていた。
「本当に、馬鹿よ。……もし。私が知っていたら、どんなことをしてでも、止めたわ」
「うん、笑実なら。そうしてくれただろうと思う」