たなごころ―[Berry's版(改)]
 喜多をメインに、昨日までの状況を関係者各位へ報告し、後始末を付けた。結局、箕浪が帰路へ付けたのは、既に太陽が真上に上がってからであった。着の身着のまま、倒れるようにソファーで仮眠を取り。目が覚めたのはつい先ほどだ。鈍る頭をすっきりさせようと、起床後直ぐ。箕浪は浴室へと足を向けたのだった。

 箕浪に、本日わにぶちを開ける意思はなかった。既に夕刻に近いこともあるが。来客の少ないわにぶちである。急な休みに困る客も居ないだろうと。
 笑実が訪ねてくる可能性も、箕浪はないだろうと踏んでいた。箕浪自身が休んでいいと伝えていたから……いや、本当の理由はそれだけではないと、箕浪も分かってはいた。
 今日だけではなく。もしかしたら、ずっと自分の前には現れない可能性も、箕浪は否定できない。笑実は、箕浪が出会った時からずっと、彼女を騙し続けて来たと思っているのだから。

 しかし、箕浪の気持ちは決まっていた。たとえ、笑実がどんな思いでいようとも、可能性が低くとも。もう、自分から諦めることはしないと。
 流れるシャワーを掴むように。箕浪は自身の右手を強く握り締めていた。
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