たなごころ―[Berry's版(改)]
 箕浪の返事を待つことなく、笑実は店内へと足を踏み入れる。突然のことで、反応のない箕浪の前を通って。慣れた様子で、店内奥にあるカウンターまで進み、手にしていた荷物をそこに置く。すると、彼女の後ろを付いて歩いてきていた箕浪へ急に振り返った。

「箕浪さん。髪、濡れてますよ」
「さっき、シャワーを浴びたから」
「乾かさないと、風邪。引きますよ」

 言葉だけを残し、作業に取り掛かるべく脚立を移動させようとしている笑実の手を、箕浪は取る。魅力的な笑みを浮かべて。

「笑実が、乾かしてよ」

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