たなごころ―[Berry's版(改)]
 粗方を拭い終え、髪全体に軽さが見られたことで。笑実は箕浪の頭からバスタオルを取り去る。手櫛で、箕浪の髪を軽く整えて。手にしていたバスタオルを、箕浪の肩越しから彼へと渡した。振り向くことなく、箕浪はそれを受け取る。背中を向けられていることで、箕浪がどんな表情を浮かべているのか。笑実には窺い知ることが出来ない。
 以前は、自分を守るように丸められていた箕浪の背中。だが今は。凛と伸び、一際広く大きく感じさせる。笑実は箕浪の背中を見つめながら、話を続けた。

「今日、大学で偶然学に会いました。少し、話が出来て。自主退学になったと聞きました」
「ん」
「箕浪さんは、もう既にご存知かとも思いますけれど」

 笑実が整えた髪を確かめるように。自身の頭を左右に小さく振ってから、箕浪は口を開く。未だ、笑実に背中を向けたままに。

「今回、開発に関わった製薬会社から。外部へ漏らすことなく、大事にせず事を収めたいと言う提案があったんだ。大学の学長はもちろん、異を唱えることはない。病院機関等の関係者からもだ。彼は、幸運だったと思う。あれだけのことを、未遂とは言え行動を起こしたんだ。……でも。今からでも、猪俣笑実が望むのであれば。復讐を目的として、狐林学に何かしらの罰を望むのなら。――俺は動くぞ」

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