たなごころ―[Berry's版(改)]
 ゆっくりと、箕浪が身体を捻り笑実へ顔を向ける。眉を寄せ、困惑気味の笑みを浮かべる箕浪の眸が、笑実を捉えた。首を振ることで、笑実は箕浪の言葉に答える。

「その必要はありません。……彼から。学から今回に至った経緯を大まかにですが、聞きました。言い訳とも取れる話です。でも、何故だか分かりませんけれど……浮気現場を目撃したときのように、抑えきれないほどの怒りが湧いてはこないんです。一時は、復讐すら考えたはずなのに。自分でも、不思議なほど。心が動かなかったんです」
「本当に?」
「はい。……確かに。自分が気付かぬところで、彼に裏切られていたこと。彼が周囲を裏切り起こした行為も。ショックでしたし、残念に感じることも変わりはありません。学の話を聞き、恋人として傍に居ながら。彼が抱えていた悩みを、何故察してあげることが出来なかったのか。自分を情けなく思う部分もあります。でも」
「でも?」
「それだけなんです。学のために何かをしてあげようと思う気持ちも、罵りたいという衝動も湧き上がってこない。3年という短くない歳月、交際してきたわけですから。この先、昔の彼のように、真っ直ぐ自分を信じて。改めて、新しい人生を歩んでくれたらとは思いますけれど」
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