たなごころ―[Berry's版(改)]
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 唐突に、喜多からの提案を受けたあの後。室内は一瞬、針の落ちた音さえ響きそうなほどの沈黙に包まれた。それを破ったのは、興味のなさそうな顔をしていた箕浪であった。空になったカップをソーサーへ乱暴に置くと。徐に、脇に携えていた小箱を手に、笑実の元へと歩み寄った。呆けている笑実に構うことなく、突然、笑実のスウェットをたくし上げたのだ。

「ちょっと!?なんですか?」
「怪我してるだろう。見せてみろ」

 床に膝を付き、腰を下ろしている箕浪の腿の上に。笑実の足が乗せられる。ソファーに腰掛けていた笑実は、危うくバランスを崩しそうになるが。思いのほかしっかりと箕浪が足首を支えていたために、転がることはない。
 小箱には救急道具が入っているのだろう。笑実の膝に出来ている傷に表情を歪めはしたものの。箕浪は手際よく手当を始めた。

「擦過傷自体はたいしたことないだろう。それよりも打撲が酷いかもしれないな。一応、抗生剤の軟膏を塗っておく。化膿しないように、毎日ガーゼの交換は忘れるなよ」
「……はい。ありがとうございます」
「ん。今度はそっちだ」

 やや大げさに感じられるほどに大きなガーゼを当てられた膝は、再びスウェットの中へ姿を消す。箕浪は、やや乱暴に笑実の手を取ると、呆れたように大きな溜め息を零した。
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