たなごころ―[Berry's版(改)]
 手にしていたファイルの中から、一枚の書類を取り出し、喜多はそれをテーブルに置く。笑実が読みやすい位置で。
 笑実は慌てたように、喜多の話を遮った。

「あの、依頼したいと思って来ましたが……料金ってどれくらいかかるんでしょうか?相場が分からなくて。一介のOLに支払える金額でしょうか」

 手を止めた喜多が、極上の笑みを浮かべる。

「今回は、当方から持ちかけた話です。料金は不要ですよ」
「え?」
「これも何かの縁でしょう。金勘定だけが全てではないでしょう?この世の中」
「いや、でも……」

 今度は、笑実の言葉を喜多が遮る。

「その代わり。私どもの要求には必ず協力願います。復讐は――この件を、とりあえず今は『復讐』と表現させて頂きます――緻密に計画が必要となります。勝手な行動や不用意な言動は相手に隙を与えることにもなりかねません。もちろん。犯罪に手を染めるようなことや常識を逸しているような要求は、私どもも致しません」
「……」
「また、私どもの指示や行動を他言しないよう、契約を交わして頂きたい。探偵なんて稼業をしていますと、色々と不都合なことも多いもので。それさえご了承いただければ、十分です。この書類もそのような内容となっています。確認してください」

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