たなごころ―[Berry's版(改)]
 もうひとつは。喜多が常時わにぶちには居ないと言うことだ。数日に一度、1~2時間程度居ると、どこかへ姿を消してしまう。探偵の仕事のためなのか。はたまた、箕浪と同様、彼も『本社』の仕事をこなしているのか。とにかく、笑実がわにぶちに滞在するときは、箕浪とふたりっきりで過ごすことが多い。
 接する時間は短いものの、笑実のことは気に掛けているのだろう。先日、笑実は喜多と腰を据えて話ことがあった。2階の事務所内で。

「アルバイトはどうだい?箕浪はわがままで大変だろう。申し訳ないね。料金の代わりと称して箕浪を押し付けてしまって」
「大人だと思わず、どうしようもない甥っこだと思うと、耐えられないことはないです。それに。『言い過ぎたな』と言う顔をこっそり見るのも。最近では楽しくさえ思えるようになりましたよ」

 笑実の答えに、喜多は声を上げて笑い出した。貴方なら、大丈夫かもしれないと。笑実にとってみれば、丸投げにされても困るのだけれどもと、一抹の不安を感じさせる言葉ではあったけれど。

 その、箕浪が言っていた『本社』の業務だが。時折、小上がりの引き戸越しに聞こえる会話の内容や、会社から訪ねてくる人との話を聞いていると。箕浪はそれなりに偉い――地位のある人間なのかもしれなかった。
< 42 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop