たなごころ―[Berry's版(改)]
 わにぶちの店舗は別としても、小上がりの奥にある部屋と2階のふた部屋の近代的なつくり、そして調度品も鑑みれば。決して見当違いではないだろうと笑実は感じていた。

 大げさな表現ではなく。初日、箕浪が口にしたとおりに、笑実が出来る仕事はほとんどなかった。来店客も少なく、来たと思えば。笑実には対応できない事柄で。店主である箕浪と言えば、あの小上がりの部屋でパソコンと向き合い何やらやっているか、レジのあるカウンターで小説を読んでいるかだ。
 箕浪の下らない指示のみをこなしているだけでは。成り行きで契約した上でのあるバイトとはいえ、笑実も気が引け始めていた。暇であるのも、苦痛を生むものなのだ。
 幸い、笑実が勤務する図書館とこの店舗の共通点は、本を扱っていることであった。多少なりとも、本に関してであれば笑実にも知識がある。当初こそ、邪魔扱いしていた箕浪ではあったが、それも数日で諦めたのだろう。放置状態であったことを逆手に取り。笑実は店舗内の整理を始めた。

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