たなごころ―[Berry's版(改)]
 ※※※※※※

「猪俣笑実。この間から、何をやってるんだ?」

 書架へむりやりに押し込まれていた本を取り出し、綺麗に掃除してから。本の題名、内容をパソコンで製作した目録内に記録し、再び書架へ並び戻す。その作業を黙々と続けていた笑実に、箕浪は声を掛ける。2段ほどで出来た踏み台へ上がる笑実を、少しだけ見上げながら。箕浪は首を傾げる。

「書架の整理です。ここって、貴重な本が多いんですね。図書館では持ち出し禁止のようなものもありましたよ」
「……まあ、じいさんが趣味で集めたような本ばかりだしな。ここを頼りにしている大学教授やらも少なくない」
「かと思えば、最近のミステリなんかもあったり」
「それは、俺の趣味だ。気にするな」
「このお店、箕浪さんのお祖父さんが開いたんですか?」
「家族には内緒でこっそりとな。仲の良かった友人から土地を借りて、始めたんだ。年を取ったからと、俺に譲った後は自由気ままに生活してる」

 真剣な眼差しで、本を確認し整頓している笑実の姿を眺めながら。箕浪は問いかける。

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