たなごころ―[Berry's版(改)]
 慣れ親しんだ古紙の懐かしい香りは、どこかへ消えてしまったようで。
 予定外の人物の訪問に加え、自身のテリトリーを土足で荒らされているようで。その事実も箕浪をより一層、不機嫌にさせていた。隠された理由に気付くことなく、鈴音は箕浪の問いに答える。

「いつまで待っても箕浪さんから連絡をくれないから。私が来てあげたのよ。時間、あるんでしょう?今日こそ、私に付き合ってよ」

 ちらりと。箕浪は自身の腕時計を覗く。喜多との約束の時間まで、まだ多少の時間があった。鈴音の訪問がもう少し遅ければと、彼女のタイミングの悪さに、箕浪は思わず舌を鳴らす。
 俯き、鈴音の問いに答えようとしない箕浪を前に。彼女は店内を見渡し、ある人物の姿を探していた。あの日、久しぶりに箕浪と鈴音が再会した日。一緒にいた女性。箕浪が抱きかかえて車まで運んだあの女性の姿を。

「今日はいないの?」
「誰が」
「……箕浪と一緒に居た女よ」
「いない」

 即答する箕浪に。鈴音は何か引っかかるものを感じる。女の感とでも言うのだろうか。何か怪しいと、鈴音の中で警笛が鳴り響き知らせている。まさかと思いながらも、鈴音は思わず問う。

「まさか、あの女と付き合ってるの?」
「は?」
「好きなのかって聞いているのよ」

「帰れ」

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