たなごころ―[Berry's版(改)]
 地を這うように低い声。鈴音は怯えるあまりに、一歩後退する。大きな音を立てながら。箕浪は椅子から立ち上がった。倒れた椅子を気にすることもない。
 昨日の喜多の問い。そして鈴音の問い。箕浪自身でも制御できない心のざわつきを、他人の言葉でこれ以上揺さぶられたくなかった。
 カウンターに手を付き、身を乗り出して。箕浪は再び口にする。自身を守るために作った殻の代わりに。周囲の世界と遮断するために、視線から逃げるために伸ばした前髪の奥から。鋭い視線と共に。鈴音は、更に一歩後退した。

「今すぐに帰れ」


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