たなごころ―[Berry's版(改)]
「大丈夫です。先生のご協力の元、多くの証拠は集まっています。残すは最後の仕上げと言っても過言ではありません。もちろん、私どもも最後まで気を抜くことなく任務を全うします。ご安心ください」
「――はい」

 まばらな人の居る、とある大学の構内にあるカフェテリア。箕浪は背中越しで交わされている会話に、聞き耳を立てていた。依頼者と喜多の会話を、だ。
 基本的に。探偵業務に関する営業的活動――依頼者との契約や経過報告などの接触は。喜多がメインで行っていた。箕浪は専ら調査を主に行っているため、依頼者と顔を合わせることはほとんどない。だが、依頼者本人に気付かれぬよう同席することは、珍しくなかった。本日のように。
 依頼者と直接顔を会わせる際。基本的に、依頼者の生活圏内、もしくはターゲットの活動圏内で会うことは避けている。しかし、依頼者の都合や日程等で必ず実現できると言うものでもない。仕方なく、周囲に認知される危険がある場合の依頼者との接触の際。喜多は変装し、依頼者と会っている。この日も例外ではなかった。
 依頼者と約束したのは、依頼者の職場でもあり、ターゲットが通う大学構内でもあったからだ。危険性は非常に高い。
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