たなごころ―[Berry's版(改)]
11.鳴り響く心音
 笑実を両腕で抱きかかえながら、箕浪自身、酷く動揺していた。
 困惑の色を浮かべた眸を真っ直ぐに向けられ。前髪で遮られている限られた視界の中。何故、笑実を抱きしめているのかと。箕浪自身が、自分に問いかけてもいた。
 ただ、脚立から滑り落ちそうになった笑実を受け止めただけのはずだった。笑実の無事を確認し、安堵したのも束の間。無言で自分を押しのけようとする笑実の態度に、箕浪は心臓を掴まれたような、表現しがたい苛立ちを感じていた。
 そして、考えるよりも先に……それは、反射的と言ってもいいだろう。笑実を更に強く、胸に抱き寄せていたのだ。

 ※※※※※※

「それでは、当初お渡しした計画書通りの日程で。必ず、お約束した証拠を掴みますので」
「はい、よろしくお願いします」

 やや肩を落とし、疲労感を感じさせる依頼者の姿を前にし、喜多の中で同情心が芽生える。今回の案件。公になれば、依頼者も含めた多くの人間が大きな損失を受けることになる。だからこそ、喜多と箕波のような探偵へ依頼が回ってきているのだ。
 例え、損失が出ないよう解決したとしても、最終的に依頼者が受ける精神的苦痛は大きいものだろう。しかし、同情心が芽生えたところで、喜多に出来る最善は、早期解決しかないのだ。喜多は小さく頷いてから、力を込めて言葉を返す。


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