たなごころ―[Berry's版(改)]
ただし。変装とは言っても、大げさなものではない。今の喜多も。普段は使用しない、印象的な細工のあるフレームの眼鏡。いつも整えられた髪型を少しだけ乱し、白衣をジャケットの脱いだスーツの上から羽織っているだけである。だが、人の印象に、記憶に残らないと言う点を重視すると、それで十分であった。人の印象は酷く曖昧なものでもある。小物に気を取られることなく、一瞬で細部までを正確に記憶している者は少ない。周囲に溶け込み、相手の印象に残さない。それが重要なのだ。
ふたりの会話はまだ続いていたものの。情報収集は十分だろうと判断した箕浪は、その場を後にする。喜多と違い、彼は特に変装などしてはいない。多くの学生が通う大学構内は、目立つ行動さえ取らなければ、誰かの印象に残ることなどまずありえない。依頼者と接触する必要のない箕波であれば、尚更だ。
そ知らぬふりでカフェテリアを抜け、周囲を見渡す。緑溢れる遊歩道、実験棟や講義室を含むであろう一際大きく無機質な建物。その奥に見える、やや小さめなレンガで造られた雰囲気のある建屋。箕浪は目星を付け、そちらへ足を進めた。
どこか、箕浪は期待していた。猪俣笑実が居る可能性を。
ふたりの会話はまだ続いていたものの。情報収集は十分だろうと判断した箕浪は、その場を後にする。喜多と違い、彼は特に変装などしてはいない。多くの学生が通う大学構内は、目立つ行動さえ取らなければ、誰かの印象に残ることなどまずありえない。依頼者と接触する必要のない箕波であれば、尚更だ。
そ知らぬふりでカフェテリアを抜け、周囲を見渡す。緑溢れる遊歩道、実験棟や講義室を含むであろう一際大きく無機質な建物。その奥に見える、やや小さめなレンガで造られた雰囲気のある建屋。箕浪は目星を付け、そちらへ足を進めた。
どこか、箕浪は期待していた。猪俣笑実が居る可能性を。