狂奏曲~コンチェルト~

 私は、薄情だ。
 あれだけいろいろと優しくしてくれている新と、何の非もないのに別れようとしている。

 少しだけ沈んだ心に、小さくため息を突いたとき車が止まる。

「おはよう」

 翼君が、儚げな笑みを浮かべて車に乗り込んできた。

「おはようっ」
「朝から元気だな」

 思い切り声を張り上げて挨拶をすると、翼君は目を細めて笑った。
 お兄ちゃんは何も言わないで、静かに車を走らせた。

「今日はなんの授業?」
「実はレポートを提出するだけなんだ」

 翼君は肩をすくめた。

「あ、それなら昨日言ってた物理教えてよ」
「え」
「私も今日、午前中だけなんだ。でも、お兄ちゃん待ってなきゃいけないし」

 ちょっと困ったように微笑む翼君に、はっとして、

「用事があったら別にいいよ」
「いや、いいよ。どこで待ち合わせる?」

 翼君の言葉に顔を輝かせた私は単純だ。

 私といることで、翼君が少しでも彼女のことで思い悩まないのなら。
 私といることで、翼君の気が少しでもまぎれるのなら。
 私はそれでいい。

「携帯、番号教えて?」
「……ああ」

 翼君は驚いたようだったけど、すぐに携帯を取り出した。
 赤外線で、お互いの番号を送りあう。
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