狂奏曲~コンチェルト~





 触れたかなめの手から逃れたのは、恐怖心のせいだったのかもしれない。

 有紀も、俺も、かなめの発言に黙ってしまった。
 失敗したとは思ったが、それでも取り繕うにはきつかった。
 やはり過去は俺達にとって重い。

 かなめは何も覚えていない。
 そのことに安心しながらも、哀しいと思ってしまう俺は矛盾している。

「あっ、あの……」

 理学部の方へと向かうかなめが、心配そうに俺に声をかけた。
 俺はかなめを振り返った。

 眉をハの字にして、不安そうな表情を浮かべるかなめ。

 違う、俺はかなめにそんな顔をさせたいんじゃない。
 かなめには、いつも笑っていて欲しいんだ。

 俺は、笑顔を作った。

「また、あとで」

 そう声をかけてやると、かなめは安心したように微笑んで、肯いた。


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