狂奏曲~コンチェルト~



 しばらくぼんやりしていると、今度は有紀が部屋にやってきた。

「よ、翼」
「おう」

 有紀は高校一年生。かなめと同じ色の髪と目を持ってる。
 有紀はにやにやと笑いながら俺の近くに来た。

「かなが随分おかんむりだったぞ」
「知るか」

 俺の様子に、有紀がため息をついた。

「お前も大概素直じゃないよな」
「……最近、自分自身が怖い」
「ん?」

 俺は寝転がりながら、

「かなめを、傷つけてしまいそうで怖い」
「なら吐き出しちまえばいいだろ?」
「それができたら苦労しない」

 そう、それができたら苦労しないのだ。
 それができないから、こうやってやるせない感情が俺の中でぐるぐるとうごめいている。
 他の男の名前を聞いただけで、狂いそうになる。

「翼、俺もかなのことは大事に思ってるが、お前だって俺の親友だろ?」
「かなめが好きで……好きでたまらない」

 有紀は、俺の気持ちを知っている。
 有紀はうんうんと頷いて、

「わかるよ、その気持ち。かなはすっげぇ可愛いし、ほんと、どんな男も放っておかないと思う」
「有紀の気持ちはシスコンだけどな」
「シスコン万歳だ」

 こうやって、有紀と話しているときは少しだけ気が紛れる。

「俺がいる限り悪い虫なんかつかないから安心しろ」


 俺が有紀みたいに、素直にかなめが好きだという気持ちをさらけ出せていたら、俺達がこれからたどる未来は、少しでも変わっていたのかもしれない。



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