狂奏曲~コンチェルト~


 幸せなのに、何かが欠けているような感覚を覚えるのはなぜだろう。
 それは、私が置いてきた過去なの?
 でも、そんなはずない。
 強姦されたなんて、忌まわしい記憶なはず。
 そんなものを求めているわけなんかない。

 でも、どうしてだろう。
 そのことを思うと、いつも胸が痛くなる。

 苦しいとか、嫌だとかそんな気持ちじゃない。
 切なさで、胸がいっぱいになるの。

 何も覚えていない私には、理解できない感覚。

 私はどうして、そんな気持ちを抱くの――……?

「あ」

 新と二人で歩いていると、灰色の頭を見かける。
 遠目にもすぐわかる。二階堂さんだ。

「あれ、あの人、前かなめが話してた人?」

 私がぶつかってしまったときの事を言ってるのだろう。
 やっぱり、あんな目立つ人、新も覚えてるよね。

「うん、お兄ちゃんのお友達なんだって」

 二階堂さんは、とても綺麗な女の人と歩いていた。
 新は特に興味がなさそうだけど、気になったことがあったようで、

「そっか。あの髪、染めてるのかな?」
「さあ……」

 本人に聞いたわけじゃないからわからない。
 新に答えながら、私は背中がぞわりとするような変な感覚を覚えていた。
 胸が締め付けられるような、変な感覚。

「かなめ、どうした?」
「え?」
「なんか、眉間にしわが」

 自分の眉間を指差しながら、新が言う。
 はっとして私は笑顔を作った。



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