愛を知りたい
消せない11歳
ピーンポーン

玄関のチャイムが鳴ったので、テレビゲームをしている父の前を通り過ぎ、玄関まで行きドアを開けた。
「お父さんは?」
前も一度来たことがある白髪頭で作業着のおじさんが立っていた。
「いません。」
下を向きながらあたしは答える。
「本当にいないの?」
「はい。いません。」
そう言いチラッと後ろを見ると、父は隠れたようで見えなかった。

バンッ
ドアを蹴られた。

「あっそ。金、いつ返してくれるのかなぁ?」
おじさんはまだ11歳のあたしに怒りをぶつけた。
あたしは怖くて下を向いたまま身体が動かない。
「お父さんどこにいるか分かる?」
「…分かりません。」
「いつも何時に帰ってくる?」
おじさんはタバコを吸い出した。
「…夜中。」
「チゲーよ。何時かって聞いてんの。」
強い口調で言うとしゃがみ込み、あたしの顔に煙を吹きかける。
「あたし、寝てるから分かりません。」
「チッ。」
舌打ちするとダルそうに立ち上がり、おじさんは帰って行った。

今日のおじさんは家の中まで乗り込んで来ない。
急いで鍵を閉め、部屋に戻る。

「帰った?」
押し入れからお父さんの声が聞こえた。
お父さんはいつも押し入れに隠れる。
「うん。」
返事をした瞬間、勢いよく押し入れが開き、あたしは吹っ飛んだ。

ドンッ

壁に頭を打ち付け、痛くて思わず叫んだ。
「テメェ!!さっき俺の前横切っただろ!俺がゲームしてる前を!」
「…ごめんなさい。」
そうして、また、父の暴力が始まった。


あたしの身体はアザだらけだ。
肩には5歳の時に付けられた根性焼の跡もある。
父は少しでもイラッとすると、あたしを殴る。
あたしが6歳の時、母が死んでからますます酷くなった。
父の彼女が家に来ると、雪が降っていても何時間でも家の前で待たされる。
父の彼女は帰るときいつも決まって、
「お父さんがあなたのこと邪魔なんだって。」
と笑いながらあたしに言った。
あたしは何も言い返すことなく、下を向いたまま、彼女の赤いヒールを見つめるだけだった。

お父さんなんかのどこがいいの?
馬鹿な女の人だな。
と心の中で思った。

お母さんも、お父さんのどこを好きになったんだろう?
お父さんと結婚なんてしなかったら、お母さんは癌になんかならなかったのに!


目が覚めた。
時間はまだ夜の2時。
1時間しか眠っていない。
おもいっきり首を蹴られたせいで、痛くて眠れないみたいだ。

涙が出てきた。
さっき見た夢を思い出した。
「頑張って。」と言いあたしを抱き寄せる母の夢。

お母さんに会いたい…!
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