シュガーレスキス
 居酒屋を出て、全く実りの無い時間を過ごした俺は酔いもすっかりさめた状態にいた。
 逆に沢村さんは支えが無いとすぐによろめいてしまいそうになっている。
 もっと厳しくセーブかけておけば良かった。

「沢村さん。しっかりして、歩ける?」

 腕を抱えて軽く体をゆすって意識を確認した。
 すると、彼女は突然俺に抱きついてきた。

「舘さん!好きなんです……好き。あなたじゃないと駄目なんです」

 酔ってなければ言えない……といった勢いだ。

「沢村さん……」

 とりあえず彼女の腕を自分から外し、冷静な調子で彼女に言った。

「あのね、何回も言うようだけど。俺はもう結婚するんだ。来年には子供も生まれる。そういう男に好きだと言っても意味が無いと思わないか?君の時間がもったいないだろ?」

 精一杯優しく言ったつもりだ。
 普通の人間なら、ここまで言われれば羞恥心が働いて強引な事は言えないものだ。
 でも、沢村さんは違った。

 目にはうっすら涙をためて、明らかに怒った表情をしている。
 そして、彼女の口から信じられない言葉を聞いた。

「赤ちゃんが出来た事に縛られて結婚なんて……それでいいんですか?」

 酔ってはいるけど、ハッキリした口調で、俺は一瞬驚いた。

「……何て言った、今?」

 聞き間違いかと思い、尋ね返してしまった。
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