あの夏の季節が僕に未来をくれた
朝食を食べ終わり、ごちそうさまと声をかけて食器を片付けると、母が隣で洗い物をしながらこちらを向いた。


じっと俺の顔を見つめたあと、ふっと顔を緩ませて笑いかけてくる。


まるで大丈夫だからって安心させるように……


その笑みが、いつもの気遣うような笑みではなく、本当の笑顔であることに一瞬動揺して顔を逸らす。


昨日とはまったく様子の違う母に戸惑いながら弁当を受け取ると、行ってきますと言ってその場を離れた。


いったい、どうしたんだろう?


自分に向けられた慈しむような眼差しは、いつもは弟に向けられてたもので。


俺には向けられたことのなかったそれは、俺を動揺させた。


素直に受け入れることなんか出来なくて、どうしても穿った見方をしてしまう。


何が母を変えたんだろうか?


今まで俺になんか興味を示さなかったくせに……


急に進路のことを言い出したりして。


こんな風にされることに慣れてない俺は、素直に喜べなくて。


嬉しいのにそれを見せるのが恥ずかしかった。




< 106 / 248 >

この作品をシェア

pagetop