あの夏の季節が僕に未来をくれた
わざとおどけたように。

敢えて軽い調子で。


俺はそう言って席を立った。


そんな俺に後ろから「行ってらっしゃい」って。


母が声をかけてくれた。


俺は振り返って、母さんに最後かもしれない言葉をかける。


「行ってきます!

じゃあね?母さん」


元気で……


その言葉は飲み込んでにっこり微笑むと、俺は思いを断ち切るようにリビングを後にした。


マンションのエントランスを抜けて自転車置き場に向かう。


ここの自転車置き場は、一人一人場所が決まっていて鍵がかかるようになっていた。


兄貴の自転車を見つけて近寄っていくと、隣に俺が使っていた自転車が、まだ置いてあった。


こんなの、捨てちゃえばいいのに……


そう、思った。


これじゃ、毎日兄貴が自転車を使うたび、俺の自転車が目に入る。


嫌でも俺を思い出すんじゃないかと、気になった。


もう俺の物は全部処分してほしかった。


兄貴の目線で自転車を眺めながら、複雑な気持ちになる。


心置きなく処分してもらうために、壊してしまおうかと思い付いた。


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