あの夏の季節が僕に未来をくれた
玄関のドアを開けると、ほのかにジンジャーティーの香りがした。


きっと母が淹れたんだろう。


俺がこんなに早く帰るとは思ってないだろうから、一人の時間を満喫しているのかもしれない。


何となく邪魔をしたくなくて、俺はそっと自分の部屋に入ろうとした。


部屋のドアを開けようとした時、すすり泣くような声がした気がして、リビングの方に耳を傾ける。


「……うっ……」


やはり、押し殺したような泣き声がしている。


俺は足を忍ばせて、リビングの方へと向かった。


そっと様子を窺うと、ドアのガラスの向こうに、母の姿を見つけた。


自分が飲むために淹れたんだと思っていたジンジャーティーは仏壇に供えられていた。


その前で遺影を抱き締めながら泣く母を見て、胸の奥がギュウッと締め付けられるような気がした。


やはり、あの時のジンジャーティーは弟がいつも飲んでいたもので、俺をあいつと間違えたんだ……とか。


弟の名前を俺の前で出さないようにしているのも、気を遣ってのことだったんだ……とか。


いろんな思いがないまぜになって、込み上げてくる。


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