あの夏の季節が僕に未来をくれた
自分の気持ちをコントロール出来ずに、思わず勢いよくリビングのドアを開けた。


本当は見過ごそうと思った。


このまま見なかったことにして、自分の部屋に戻ればいいんだと。


そしてまた夕飯の頃になったら、なんでもない顔で接すればいい。


やっとここまで築き上げた母との関係を、こんなことで崩してしまいたくなかった。


だけど……


それじゃあ、あの頃と何も変わらない。


弟の影に隠れて親の顔色を窺っていたあの頃と……


ただ、弟が生きてるか死んでるかの違いだけ。


もうそんなのは嫌だった。


俺を……俺自身を見て欲しい。


あいつの代わりじゃなくて、オリジナルの俺を……


バンッと大きな音を立ててそのドアは開いた。


同時に母が慌てたように遺影を隠す。


泣いていた顔を必死に袖で拭うと、驚いたような怯えたような、バツの悪そうな顔をしてこちらを見た。


「……雅紀」


小さな声でそう呟くように言いながら、そのあとの言葉が続かない。


「何してんの?」


そんな風に言うつもりはこれっぽっちもなかったのに、出てきた言葉は冷たく悲しみに満ちていた。


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